投稿日:2025.06.23

フルーツ、ナッツ、花、スパイス、ピートなど。

ウイスキーの香りについての表現は複雑で、読む人をしばしば悩ませます。

それはウイスキーの製造工程で、さまざまな香りが生まれているから。

アルコールに溶け込んだ香りの重なりを表現するために、独特なものになっているからです。

本稿ではウイスキーの製造工程をたどりつつ、どのタイミングでどんな香りが生まれるのかを解説しています。

あわせて、ウイスキーの香りを存分に楽しむための飲み方も紹介していきましょう。

原料に由来するウイスキーの香り

ウイスキーの複雑な香りには、原料由来のものも含まれています。

次の表はウイスキーの原料と、それに由来する香りをまとめたものです。

グレーンウイスキーやバーボンの多くはトウモロコシ、ライウイスキーはライ麦、ウィートウイスキーは小麦に由来する独特の香りを、それぞれ持っています。

原料ウイスキー香りイメージ
大麦モルト香ばしさトースト、ビスケット、モルティ
トウモロコシグレーン、バーボン甘さバニラ、シロップ
ライ麦ライスパイシーさコショウ
小麦ウィート甘さと香ばしさはちみつを塗ったトースト

とはいえ、モルトウイスキーから必ずトーストの香りがするわけではありません。

モルトウイスキーの香りには、大麦由来の香ばしさが潜んでいるくらいのニュアンスで解釈してください。

大麦由来のトーストやビスケットを思わせる香ばしさは、しばしばモルティと表現されます。

独特のスモーキーな香りの由来

スコットランドの島々で造られるモルトウイスキーの多くが、スモーキーと称される香りを帯びるのは、原料の麦芽を乾燥させるのにピートを用いるからです。

ピートとは枯れた植物が長い時間をかけて炭のようになったもので、古くから燃料として用いられてきました。

麦芽の乾燥のために焚かれるピートは、独特の香りの由来になっています。

アイラ島やオークニー島のウイスキーが持つスモーキーさは、ほかのものでは物足らなさを感じるほどファンにとっては魅力的なものです。

発酵で作られるウイスキーの香り

発酵は酵母の働きでアルコールを作る工程ですが、ここでも多くの香りが生まれます。

モルトウイスキーの場合、酵母を加えるのは、砕いた大麦麦芽にお湯を足して作った麦汁です。

麦汁には麦芽酵素の働きで、デンプンから作られた糖分が豊富に含まれています。

酵母は麦汁の糖分に働きかけ、アルコールを含む液体(もろみ)を作ります。

麦汁に酵母を加えて作られるのは、アルコールだけではありません。

二酸化炭素や香り成分のエステルも作られ、二酸化炭素はビールやスパークリングワインなどの泡になり、エステルはウイスキーの香りの一部になります。

発酵の過程で何種類も発生するエステルは、果実や花、穀物、植物などを思わせるものですが、どんなエステルが発生するかは原料と酵母次第だとか。

蒸留所や銘柄ごとに用いる酵母は異なっており、それぞれの個性を作り出しています。

蒸留によるウイスキーの香りへの影響

蒸留はもろみに熱を加えて、アルコール濃度を上げる工程ですが、同時に香り成分のエステルも抽出・凝縮します。

作られたエステルは、すべてがよい香りというわけではありません。

生臭さや人の汗を思わせる不快なエステルもあり、それらを蒸留の過程で取り除くのです。

単式蒸留器と呼ばれる昔ながらの蒸留器(ポットスチル)を用いると、一度の作業で上げられるアルコール濃度は限られるものの、香りが強く残ります。

一方で、連続式蒸留器は一度の作業で十分なアルコール濃度が得られますが、エステルが失われやすいという半面もあります。

一般にモルトウイスキーより、グレーンウイスキーの方が香りが弱いとされているのは、グレーンウイスキーが連続式蒸留器で生産されるケースが多いからです。

蒸留により、アルコール濃度が高く香り成分が凝縮されたニューポットと呼ばれる液体が完成します。

熟成で作られるウイスキーの香り

蒸留でできたニューポットは、無色透明のアルコール濃度が高い液体ですが、

そのままではウイスキーとは呼べません。

樽での長期間の熟成を経て、ニューポットはウイスキーになるのです。

樽の中で起きているのは、主に3つの変化です。

  1. 樽からの成分の溶出
  2. 刺激成分の放出
  3. 成分の化学変化

1.樽からの成分の溶出

樽からニューポットに、色と香りの成分が溶け出ます。

熟成に用いる樽とニューポットに与えられる香りの関係は、次の表のようにまとめられます。

香りイメージ
アメリカンオーク甘さバニラ、カラメル
ミズナラオリエンタルさ伽羅、白檀
シェリー樽フルーティーさドライフルーツ類
バーボン樽甘さバニラ、カラメル

【アメリカンオーク】

アメリカンオークはウイスキーの熟成に広く用いられる樹種です。

代表的なものはバーボンで、内側が激しく焦がされた新品のアメリカンオーク樽で熟成されるので、特有の甘い香りや香ばしさを感じます。

ジャパニーズウイスキーの熟成にもアメリカンオークは用いられますが、感じられるのは甘い香りだけです。

バーボンほどの香ばしさがないのは、樽の内側をバーボン樽ほど焦がさないからでしょう。

【ミズナラ】

ジャパニーズオークとも呼ばれるミズナラは、ニューポットにオリエンタルと称される香りを与える樹種で、主にジャパニーズウイスキーの熟成に用いられます。

独特の伽羅や白檀を思わせる香りは、世界から注目を集めていますが、加工の難しさや必要とされる熟成期間の長さから、広くは使用されていません。

ミズナラ樽熟成のウイスキーを比較的手軽に楽しめるのは、日本人の特権といえるかもしれません。

【シェリー樽】

ワインの一種、シェリー酒を熟成した樽はマッカランやグレンファークラスなど、スコットランド産のシングルモルトの熟成によく用いられます。

シェリー酒に用いたものを再利用するのは、新品の樽が持つ成分が強すぎてウイスキーの熟成に向かないことと、シェリー酒の風味をニューポットに与えたいからです。

樽材に豊富に含まれたポリフェノールやタンニンが、ドライフルーツ類を連想させるフルーティな香りを生みます。

シェリー酒にはオロロソやペドロヒメネス、フィノなどのバリエーションがあり、与えられる香りも異なるので、試してみるとよいでしょう。

【バーボン樽】

バーボンを熟成した後の樽もスコットランド産シングルモルトの熟成に用いられており、グレンリベットやグレンフィディック、グレンモーレンジィが代表的な銘柄です。

バニラやカラメルなどバーボンと似た甘い香りが与えられますが、香ばしさがそれほどでもないのは、香り成分がすでに溶け出た後だからです。

バーボン樽がスコッチウイスキーの熟成に用いられるようになったのは、輸送容器の変化によります。

樽で輸入されていたシェリー酒がビン詰めになり、シェリー樽の入手が難しくなり、かわってバーボン樽が用いられるようになりました。

2.刺激成分の放出

樽詰めされたニューポットは、年に数%ずつ蒸発します。

エンジェルズ・シェアと呼ばれる現象ですが、同時に刺激的な香りや雑味も蒸発していきます。

長期熟成を経てエンジェルズ・シェアが多くなるほど、ウイスキーの香りも洗練されていくといえるでしょう。

3.成分の化学変化

刺激成分が放出されると同時に樽には空気が入り込み、ニューポットに化学変化をもたらします。

代表的なものはアルコールと脂肪酸によるエステル化で、発酵時と同様に香り成分が増していくのです。

樽の中で長期間熟成したウイスキーが、独特の香気を得るのは、樽の中でもエステル化が起こっているからです。

後熟で得られるウイスキーの香り

後熟とは樽熟成後の原酒を混ぜ合わせた後に、さらに樽で熟成することです。

後熟に用いられる樽は、ウイスキーにさらに香りを付け加えます。

樽で熟成されたニューポットは、ウイスキーらしい色と香りを与えられた原酒へと変化します。

しかし、原酒そのままはビン詰めされないのが一般的です。

シングルモルトなら同じ蒸留所で造られた原酒を何種類か混ぜ、ブレンデッドならグレーンウイスキーが加えられ、後熟ののちにビン詰めされるのです。

銘柄の後にポート・フィニッシュやマディラ・フィニッシュとあるボトルを目にしますが、これはポート樽やマディラ樽で後熟したことを表しています。

ポート樽での後熟で得られる香り

ポート樽で後熟されたウイスキーは、ベリー類を思わせるフルーティな香りをまといます。

ポート樽とは、ポルトガル原産のポートワインを熟成した後の樽のことです。

ワインにブランデーを加えてアルコール度数を高めたポートワインは、リッチな香りを持ちますが、ポート樽で後熟したウイスキーにもリッチさが加わります。

マディラ樽での後熟で得られる香り

マディラ樽で後熟されたウイスキーは、フルーティーさに加え、スパイシーな香りをまといます。

マディラ樽とはポルトガル・マディラ島で作られる、ワインの一種を熟成した樽のことで、加熱熟成による独特の風味が魅力です。

後熟にはポート樽やマディラ樽以外にもさまざまな種類の樽が用いられ、ウイスキーに新たな香りを付け加えています。

ウイスキーの香りを楽しむための飲み方

ウイスキーには原料や発酵、熟成に用いる樽などに由来する香りが溶け込んでいますが、それらを存分に楽しむには飲み方に工夫が必要です。

ここからは、ウイスキーの香りを楽しむための飲み方を紹介していきましょう。

ワンドロップ

ウイスキーに常温の水を少量ずつ加え、変化する香りを楽しみます。

水を加えるのに用いるのはティースプーン、本格的なバーではしばしばスポイトが用いられます。

少量の水で香りが変化するのは、アルコール濃度がわずかに下がっただけ、溶けていた香りが解き放たれるからです。

水を加えるにしたがって変化する香りは、いつものウイスキーの新たな魅力に気付かせてくれるかもしれません。

トゥワイスアップ

ウイスキーに同量の常温の水を注いで楽しむ方法で、ウイスキーの香りを確かめるために、コンテストの審査員やブレンダーも用いています。

アルコール濃度が20%くらいに下がることで解き放たれた、多くの香りを感じてみましょう。

スワリング

ストレートでグラスに注いだ常温のウイスキーをゆっくりと回し、空気と触れ合わせることで、香りを変化させる方法です。

ウイスキーを回しやすいようにショットグラスではなく、後述するテイスティンググラスを用いるとよいでしょう。

2種類の香りを意識する

ワンドロップやトゥワイスアップなどでウイスキーを楽しむなら、2種類の香りを意識してください。

ひとつ目は鼻先で感じる香りでトップノートと呼ばれています。

ふたつ目はウイスキーを飲みこんだ後に、のどから鼻に抜ける香りです。

2種類の香りを意識することで、ウイスキーの香りの奥深さにも迫りやすくなります。

テイスティンググラスを用意する

テイスティンググラスとは、上の写真にもあるチューリップのような形をしたウイスキー専用のグラスのことです。

香りを確かめやすくするために口の部分が広がっているほか、底の部分はウイスキーが一気に口の中に注がれるのを防ぐ形状になっています。

開栓後の香りの変化を確かめる

開栓後しばらくたったウイスキーは、空気に触れただけ香りが変化します。

開栓直後のウイスキーにあったアルコール感もマイルドになるので、香りをより楽しめる効果もあります。

開栓後ごくわずかずつ楽しみ、自分好みの香りになるタイミングを見計らうのもよいでしょう。

テイスティングノート片手に楽しむ

「ドライフルーツ、柑橘系、煮込んだフルーツとカラメル」とは、ある方のサントリー山崎12年の香りについての記述です。

これだけではピンと来ない方がほとんどかと思いますが、山崎12年をトゥワイスアップなどで楽しみながら読むと理解が進むはず。

香りの表現の多彩さにも、うならされることでしょう。

今まで表現が難しかった香りを表現する参考にもなるので、ご自身でもテイスティングノートを付けたくなるかもしれません。

まとめ

香りにはウイスキーの魅力が凝縮されています。

ウイスキーの好みを広げるのに、香りからアプローチしていくのはスタンダードな方法です。

ウイスキーの香りは原料や熟成に由来するので、好みのウイスキーと同じ原料や熟成樽のものを見つけます。

たとえばマッカラン12年の香りが好みなら、シェリー樽熟成のモルトウイスキーのほかのボトルを探せば、好みのものが見つかりやすくなるはずです。

また、バーに出向いて、香りの好みを伝えるのも方法のひとつ。

「手ごろな価格でフルーティーな香りのウイスキー」と注文すれば、好みのボトルに出会える確率も上がるでしょう。

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